未来考房/瓦人 ~gajin~

和瓦とその未来を創る淡路島の瓦師ブログ

文化的価値とは…

四国八十八ヶ所の玄関口…一番札所「霊山寺」。

ちょうど4年前のこの時期に本堂屋根が金属屋根材にて葺き替えられた。

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全体意匠はもとより細部の仕様にいたるまで、その成型・再現技術は見事であり、これはあまり必要性に疑問を感じるが、エイジングで古びた風情まで塗装で表現されている。

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我々が見ると、質感や纏う空気感から一目瞭然で薄っぺらいハリボテの映画セットのように見え、土を焼いた瓦ではないと瞬時に判断できるが、残念ながら一般の人々では素直に「新しい瓦」で改修されたと思うだろう。

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ただ、境内敷地内にある仁王門、太師堂、多宝塔、鐘楼に、随分前に“かわら美人”を納めさせていただいた紀州接待所と…瓦葺きの風格ある建築が居並ぶなか、本堂の屋根だけ歴史のない新建材に変わってしまったのが非常に残念だ。

 

東京の浅草寺をはじめ、軽いという絶対的優位性を理由に金属屋根材が施工される社寺物件が全国に増えているが、それをもって建物によっては近い将来の文化財登録の資格を失ったものもある。

 

“本物”と“偽物”とは誰がどの物差しで判断するかによって変わるが、畏敬と感謝の念とともに大いなる自然と共生してきた日本人の精神性を具える者としては、例えば木、土、石、竹、草、漆喰、紙、瓦…そして歴史の積層と技術の伝承の先にある伝統建築こそが、文化的価値を有する“本物”だと直感的に思う。

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最新技術で創り出されたこの霊山寺の金属屋根材は、確かに本瓦葺きに比べ圧倒的軽量化を実現し、意匠においても瓦の真似事を完璧にこなし、ある意味においてクライアントにとっての“価値”を提供できているが、1,000年余の歴史と物語を紡ぐに見合う建材たるかといえば、どうも腑に落ちない。

そこが文化的価値を失うということの一つの裏付けだと思うのですが、価値観がこれだけ多様化する現代だからこそ、各地のこうしたシンボリックな建築こそ、せめてアイデンティティーや、本来具わるべき美意識、そして失っては取り返しのつかないかけがえのない価値を備え続けてほしい!

 

軽量・安全の大義名分のもと、短絡的思考で文化的価値を損なってまで連綿と続く歴史の系譜を断裂させてほしくない。

文化立国としての誇り…2,000余年の叡智を結集させて、浅はかな判断を遥かに凌駕する、より良い方向性を編み出してほしいものです。

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土を焼いた瓦には、雪舞うこの真冬にあっても、その素材の優しさを知ってか鳥も羽を休めていました(^^)

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