このたび地元広報誌「かわら版」から依頼を受け寄稿させていただいた。
ここにシェアしますので、長文ですが“まちづくり”“ヒトづくり”に関心がある方はどうぞご笑覧ください(^^)

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「ふるさとは 近くにありて 想うもの」
ふるさとは 遠くにありて 想うもの という室生犀星の一文は有名だ。
実際の意味とはニュアンスが違うが、当時の時代背景をもとにした郷愁の表現としてよく耳にする。
ただ、交通網の発達により簡単にどこへでも行くことが可能となり、またインターネットの普及で世界中の情報を瞬時に得られる現代にあっては、もはや遠くにありて想っている場合ではなく、今こそ足元にある価値をしっかりと見つめ直すべき時であると思う。
どの土地にも、その地にしかない価値というものがある。
どの土地にも、持ち出せない価値というものがある。
自分にとって足元にあるそのかけがえのない価値は一つ「瓦」であった。
農業、漁業は日本中にあれど、もはや日本において主に 3 カ所にしかないような産業がここ津井地区にある。
愛知と島根と淡路島の三大産地をはじめ、赤瓦や黒瓦など各地に点在する数件の地方窯元も含めたった約 100 件の窯元が日本の風景をつくっているといっても過言ではない。
しかもそのうちの半分にあたる約 50 件が淡路島にある。
そのような希少で貴重な産業がここにあるということを知ってほしい。
現代日本は大都市以外どの地方においても急速な高齢化、過疎化により様々な仕組みが制度疲労をおこし、ともすると行政の運営もままならぬ状況にさえある地方もあるが、淡路島は幸い豊かな環境と、適度なスケール感、そして地理的好条件に恵まれているおかげか主観だが比較的幸せそうにも感じる。
先日、地元の辰美小学校で開催された「へき地・複式教育研究発表会」で講演させていただいた。
依頼を受けてまず頭に浮かび、参加される教育者の皆様に伝えたかった文言は、「へき地という言葉を消極的にとらえたことが生まれてこのかた今まで一切ない」ということである。
足元にあるかけがえのない価値に気づき、生まれ育った背景に揺るぎない自信と誇りを持てると、例えば東京にないものがすべて身近にあり、東京の人が持てないものをすべて持っていることを知る。
日々目の前に描かれる夕景を美しいと感じるか感じないかでは、人生の豊かさに大きな差がでる。
またその美しさに可能性を見出すか見出せないかでは、生み出されるものは全く違う。
非常に興味深い統計がある。
あらゆるジャンルのノーベル賞受賞者や、世界的に大成した起業家、芸術家、音楽家…など世界で名を馳せた人々の生い立ちを紐解くと、なにも東京や大阪で受験戦争に勝ち抜いたものはおらず、例えばスイスやカナダなどまさしく絵にかいたように美しい風景に包まれて育った者や、フランスやイタリアなど美しい町並みを有する欧州各国のように歴史的・文化的に豊かな景観・環境で育った者が多く、日本でいえ
ば京都出身者が多いという。
美しい風景や町並みは郷土愛と帰属意識を醸成させ、地に足ついたアイデンティティをもって生み出されるアウトプットはより良く強いものになるということの裏付けでもある。
日本がこれからも末永く反映し、世界からもリスペクトされる国になるためは、学術・技術・芸術の三術が調和する文化立国を目指すべきである。
振り返るとこの国は戦後復興~成長期にかけて学術・技術に傾注しすぎた。ただそのおかげで世界第二の経済大国となったのだが、芸術という“術”をなおざりにし過ぎた弊害として、住宅行政を一つ例にすると津々浦々の美しい町並みは跡形もなく失われた。
とはいえ、芸術だけに注力し学術的根拠と技術的根拠をおろそかにしては、例えばものづくり一つをとっても長く続く良いものはできない。
この三術の調和はすべてに通じる真理であり、どれかに偏るのではなく常にバランスを意識することが大切である。
“多様性”とは昨今よく見聞きする言葉だが、本質的な意味での“個性”を持たないまま盲目的に多様化こそ正義・正解という迷言に踊らされてはならない。
多様性の対義語は画一性や均一性であり、現代の風潮ではどこか消極的でマイナスイメージとして捉えられがちだが、私は多様性の対義語として“一様性”を推したい。
雑多で無秩序、物語も美意識も特徴もなにもない多様化への盲進より、今この国は改めて美しく凛とした潔き一様性を取り戻すべきだと思う。

私はこの 25 年、一貫して次のような“想い”のもと瓦づくりに励んでいる。
それは瓦をつくる者として、その一歩先のビジョンとして創りたいものは“折り重なる屋並みが描く美しい風景”であり、二歩先のビジョンはその折り重なる屋並みのもとに同じく“折り重なる豊かな人の関係性”を取り戻すことである。
つまり一様性がつくる美しい町並みや風景、そしてそのもとで育まれる帰属意識と郷土愛の再生である。
その積み重ね、言い換えればその折り重なりの先で、もしかしたらこの町からノーベル賞受賞者が生まれるかもしれない。また将来世界に羽ばたく子供たちが生まれるかもしれない。
つまり瓦屋根とそれが創る美しい風景は人材育成にも貢献すると思う。
-ふるさとは 近くにありて 想うもの-
⚪︎その地に住む人だからこそ、その地にしかない価値を知るべきであり
⚪︎その地に住む人だからこそ、その地にしかない価値を伝えるべきであり
⚪︎その地に住む人だからこそ、その地にしかない価値を未来へと繋げるべきであり
⚪︎その地に住む人だからこそ、その地にしかない価値を新たに創り出すべきである

国生みの島、淡路島…神話を作るのが人の仕事であるならば、神話を現実のものに創造するのもまた人の仕事である。
この高温多湿な国において、1,400 年以上にわたり確かに持続してきたものが持続可能じゃなくて一体なにが持続可能なのか…。
ここ淡路島の津井地区において、その地にしかない価値が一つ「瓦」であるならば、それを知り、伝え、繋げ、創ることを通して再び日本中の屋根が瓦で覆われ、その先で世界に誇る美しい風景を取り戻す日を夢見て、今後も瓦づくりと瓦の未来創りに精進しようと思います。