未来考房/瓦人 ~gajin~

和瓦とその未来を創る淡路島の瓦師ブログ

文化的価値とは…

四国八十八ヶ所の玄関口…一番札所「霊山寺」。

現在改修工事中の本堂屋根がチタン屋根材にて葺き替えられました。

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全体意匠はもとより細部の仕様にいたるまで、その成型・再現技術は見事であり、これはあまり必要性に疑問を感じるが、エイジングで古びた風情まで表面塗装で表現されています。

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我々が見ると、質感や感覚的に感じる雰囲気(オーラ)含めて、一目瞭然で瓦ではないと判断できますが、残念ながら一般の人々では素直に「新しい瓦」で改修されたと思うでしょう。

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ただ、立派な仁王門、太師堂、多宝塔、鐘楼に、以前かわら美人を納めさせていただいた紀州接待所と瓦葺きの風格ある建築が居並ぶなか、本堂の屋根だけ歴史のない新建材に変わってしまったのが残念です。

東京の浅草寺をはじめ、軽いという絶対的優位性で全国においてチタン屋根材が施工される物件が増えていますが、建築によっては近い将来の文化財登録の資格を失ったものもあります。

“本物”と“偽物”とは誰がどの物差しで判断するのか分かりませんが、畏敬と感謝の念とともに大いなる自然と共生してきた日本人の精神性を具える者としては、例えば木と土と石と草と瓦、そして歴史の積層と技術の伝承の先にある伝統建築こそが文化的価値を有する“本物”だと、感覚的に、またごく自然な思考の結果として納得します。

最新技術で創り出されたチタン屋根材は、確かに圧倒的軽量化を実現し、意匠においても瓦の真似事を完璧にこなし、ある意味で消費者にとっての“価値”を提供できていますが、1,000年余の歴史と物語を紡ぐに見合う建材たるかといえば、どうも違和感しか感じません。

そこが文化財的価値を失うということの一つの裏付けだと思うのですが、価値観がこれだけ多様化する現代だからこそ、各地の伝統建築やシンボリックな建築こそ、せめてアイデンティティーや、本来具わるべき美意識、そして言葉で表現するまでもない大切なモノとコトを失わないでほしいと思います。

軽量・安全の大義名分のもと、短絡的思考で文化的価値を損なってまで連綿と続く歴史の系譜を断裂させてほしくない。

文化立国としての誇り…2,000余年の叡智を結集させて、浅はかな判断を遥かに凌駕する、より良い方向性を編み出してほしいものです。